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札幌地方裁判所 昭和53年(モ)1769号 決定 1979年5月08日

更生会社内外緑地株式会社管財人

申立人

渡辺敏郎

被申立人

松坂有祐

右代理人

広岡得一郎

主文

一  更生会社内外緑地株式会社の被申立人に対する損害賠償請求権の額を次のとおり査定する。

1  違法な貸付額相当損害金四三五万円

2  違法な債権放棄額相当損害金一七五万円

3  違法な弁済及び代物弁済額相当損害金二三六〇万円

4  右各金員に対する昭和五二年五月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金

二  申立人のその余の申立を棄却する。

三  申立費用はこれを一〇分し、その一を被申立人の負担とし、その余は申立人の負担とする。

理由

(申立)<省略>

(当裁判所の判断)

第一当事者について

申立の理由第一項一、二の1、2の各事実及び本件更生会社にかかる会社更生事件(札幌地方裁判所昭和五一年(ミ)第六号)の手続が現在当裁判所において進行中であることは当裁判所に顕著な事実である。

第二違法配当及び過大納税による損害について

一申立人及び被申立人の各審尋の結果並びに両名が提出した各疎明資料(以下、右審尋の結果を含めて「本件疎明資料」という)によると、申立の理由第二項一の1(貸借対照表、損益計算書、利益処分案の作成等)、同項一の2(法人税等の納付、株式配当金の支払)、同項二の1(保証付販売契約、付加金付販売契約と計算処理の結果)の各事実を一応認めることができる。

二右認定の本件更生会社が相手方と保証付販売または付加金付販売の際に概略別紙記載一、二の内容の売買契約証書及び覚書を作成した事実及び合意内容に照らすと、保証付販売は再売買予約付売買、付加金付販売は買戻特約(民法五七九条)付売買の性質を有するものと認めることができる。そして、右の再売買予約付売買及び買戻特約付売買はいずれも売買の法的形式を備えているが、売主はあらかじめ留保した取戻権能を行使することによって目的物の返還を受けると共に当初売買代金名下に取得した資金を返すべき義務を負うのであつて、その社会的効用はもつぱら信用の供与とこれに対する債権担保の目的に奉仕することにあり、その法的実質は売渡担保の一形態と認むべきものである。

本件の保証付販売及び付加金付販売の合意条項の中には、本件更生会社が相手方に対し目的不動産の転売先を斡旋すべき義務を負う旨の条項が存し、右条項にしたがつて転売先斡旋を行えば本件更生会社は相手方に対する再売買または買戻の義務を免れることになるのであるが、右条項と併せて相手方に対し右斡旋によらない転売等の処分を禁止し、かつ、本件更生会社が相手方に対し、再売買につき当初の売買代金を超える最低保証価額、買戻につき当初の売買代金及びこれに対する年三割の割合による付加金の各支払義務を負う旨の条項が存在し、右条項及び本件疎明資料によつて一応認められる本件更生会社が後に斡旋を行わなかつた事実に照らすと、本件更生会社と相手方の間には斡旋価格について再売買または買戻の際に支払うべき金額を超える価格の合意があつたと推認することができ、また、右事実並びに本件疎明資料によつて一応認められる本件更生会社が目的土地について将来において自ら宅地造成等の開発行為を行う計画を有していた事実及び契約当時目的土地について具体的な開発行事の予定がなかつた事実を総合すると、転売先斡旋条項は再売買または買戻に代わる実質的清算方法を定めたものにすぎないと解釈することができ、右の転売先斡旋条項が存在することから本件の保証付販売契約及び付加金付販売契約が終局的確定的に相手方に権利を移転する趣旨のものと解することはできない。したがつて、右各契約が実質的にも売買としての法的性質を備えていたということはできない。

右各契約の性質を以上のように解して適正な会計処理をすると、別表一の申立人作成欄、同二の保証付販売、付加金付販売を負債発生原因と認識した場合の処理結果欄各記載のとおりとなり、第一四期及び第一五期についてはいずれも欠損を生じ、配当可能利益もないことになる。

三そこで、被申立人が保証付販売、付加金付販売による収入を第一四期及び第一五期に計上すべき売上と認識判断したことについて、取締役としての忠実義務(商法二五四条の二、二五四条三項、民法六四四条)の懈怠があるか検討する。

法人税等の課税標準となる法人の当該事業年度における所得の計算は、基本的には企業利益の計算と同じく一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがつて行われ(法人税法二一条、二二条、六六条)、費用及び収益の認識も発生主義の会計原則にしたがつて行うべきものである。法人税基本通達は譲渡担保にかかる固定資産収益の帰属について当該不動産が右固定資産を従来どおりに使用し、かつ、相手方に対し債務の利子またはこれに相当する使用料の支払を約したときは譲渡がなかつたものとして取扱い、右要件を欠くに至つたとき、または債務不履行のためその弁済は充てられたときに譲渡があつたものとして取扱う旨定めている(同通達二の二の一)。右通達によれば固定資産以外の棚卸資産については譲渡担保として法人の所得の計算をすることができるか否か明確ではないところ、本件疎明資料によれば本件更生会社は昭和四七年三月期以降監査法人朝日会計社(代表社員森田松太郎)に対し会計監査を依頼していたが、被申立人は同社の指導により本件更生会社の第一四期及び第一五期の所得に関し保証付販売及び付加金付販売による収入について売上として仕訳処理したうえ納税申告を行いこれが是認された事実、右申告に先立つて税務当局に対し照会のうえ売上として計上すべき旨の回答を得ていた事実を一応認めることができる。前記のとおり、仮に被申立人が保証付販売及び付加金付販売についてその法的実質にしたがつた会計処理を行つたならば、第一四期及び第一五期においては別表一の申立人作成欄記載のとおり欠損を生じ、法人税等の納税義務が発生しないことになるが、被申立人が照会に対する税務当局の回答にしたがつて計算処理を行い、これが是認された事実及び会計処理の専門的技術的複雑性に照らすと、被申立人が監査法人の指導のもとに行つた計算処理手続及び納税申告が取締役の忠実義務に反し違法な行為であると断定することはできず、しがたつて、申告納税額に関する申立人の損害賠償請求権査定の申立は前提となる被保全権利につき疎明を欠くことになり、理由がない。

元来、企業会計の目的は、企業の経済的実態を計数を用いて静態的及び動態的に把握し、配当可能利益の算出及び企業資本の充実を目的として真実の会計事実を明瞭に表示することにあり、会計事実(取引事象)の法的形式と法的実質が乖離し法的実質によれば企業財政に不利な影響を及ぼす可能性がある取引事象については、単に法的形式によつて会計処理するのでは足りず、不利な影響を及ぼす可能性に備えて適当に健全な会計処理を行うべきものである(企業会計原則第一、六、同原則注解〔注六〕参照)。したがつて、被申立人ないし本件更生会社において、保証付販売及び付加金付販売を実質的には資産の譲渡ではなく負債の発生及び担保の設定であると積極的に認識し、或いは少くとも負債性引当金等の収益減殺勘定項目を設けて第一四期及び第一五期の配当可能利益の計算を行うことが企業会計原則及び商法の規定の目的に適合する適正な会計処理であり、これによつて本件更生会社の企業資本を充実させ、倒産の原因を排除することも可能であつたということができる。しかし、会計主体が作成する財務諸表は実質的に内容が単一であることを要し(企業会計原則第一、七)、用途に応じて異なる内容の財務諸表を作成することは許されないのであるから、被申立人が照会に対する税務当局の回答にしたがつて計算処理を行い、これが是認された事実に照らすと、被申立人が配当可能利益の算出にあたり、保証付販売及び付加金付販売による収入を売上金と認識して各期の利益を算定したことが取締役の忠実義務に反し違法な行為であると断定することはできない。したがつて、利益配当に関する申立人の損害賠償請求権査定の申立も前提となる被保全権利につき疎明を欠くことになり、理由がない。<以下、省略>

(村重慶一 宗宮英俊 榮春彦)

(別紙)

一 保証付販売の合意内容

(イ) 本件更生会社は買主に対し、特定の土地(以下「売買物件」という)を売り渡し、買主はこれを買い受ける(不動産売買契約書第一条)。

(ロ) 本件更生会社は代金全額の受領と同時に、売買物件を買主に引き渡し、買主は引渡し以降における一切の管理責任を負う(同第五条)。

(ハ) 本件更生会社は売買物件につき地役権、質権、抵当権もしくは賃借権の設定その他完全な所有権の行使を阻害する一切の瑕疵、負担のない所有権を買主に移転することを保証する(同第六条)。

(ニ) 本件更生会社は、代金全額を受領したときはすみやかに、買主に対する所有権移転仮登記手続をする(同第四条)。

(ホ) 買主は売買物件につき造成工事および関連諸工事は一切行わないことを承認する(同第九条)。

(ヘ) 買主は、代金完済後といえども書面による本件更生会社の承諾がなければ売買物件の権利を第三者に譲渡もしくは名義の変更または抵当権、質権の設定をすることはできない(同第一三条)。

(ト) 買主が売買物件につき売買の斡旋を希望したときは、別途覚書で定めるとおり第三者へ売買の斡旋をしなければならない(同第一七条)。

(チ) 買主が売買物件の売買を希望したときは、本件更生会社は所定の期間内に第三者に売買の斡旋をする(覚書第一条(1))。

(リ) 買主は、本件更生会社の書面による承諾なしに右売買斡旋期間内は第三者に売買物件を売却しない(同第一条(2))。

(ヌ) 買主が(リ)の規定に違反したときは、買主は本件更生会社に対し売買代金の二割に相当する金額を違約損害金として支払う(同第一条(3))。

(ル) 本件更生会社が売買斡旋期間内に、第三者に売買の斡旋をできなかつたときは、本件更生会社は、買主の申出により、同期間経過後すみやかに買主との間で売買代金に一定の金額を付加した金額「保証価額」で売買物件につき売買契約を締結する(同第二条)。

(ヲ) 買主が売買物件につき売買斡旋および本件更生会社との再売買を希望しない場合、買主は、本件更生会社が売買物件上において開発行為を計画し、または実施するときは、これに全面的に協力する(同第三条)。

二 付加金付販売の合意内容

(イ) 本件更生会社は買主に対し特定の土地(以下「売買物件」という)を売り渡し、買主はこれを買い受ける(不動産売買契約証書第一条)。

(ロ) 買主が希望する場合、本件更生会社は代金完済後、売買物件につき所有権移転保全の仮登記手続をする(覚書2)。

(ハ) 本件更生会社は、売買代金全額の受領と同時に、売買物件を買主に引き渡す(不動産売買契約証書第五条)。

(ニ) 本件更生会社は、売買物件につき、地役権、質権、抵当権もしくは賃借権等完全な所有権の行使を阻害する瑕疵、負担のない所有権を買主に移転する(同第六条)。

(ホ) 買主は、売買物件につき造成工事および関連諸工事を一切行わない(同第九条)。

(ヘ) 買主が契約条項に違反したときは、買主は本件更生会社に対し、売買代金の二割に相当する違約損害金を支払う(同第一二条)。

(ト) 本件更生会社は、所定の期間内にかぎり、付加金付販売を解約することができる(覚書1)。

(チ) 買主は売買代金完済後といえども、本件更生会社の書面による承諾がなければ、売買物件の権利を第三者に譲渡もしくは名義の変更または抵当権、質権等の設定はできず買主がこれに違反したときは、売買代金の二割に相当する違約損害金を支払う(同3)。

(リ) 本件更生会社が(ト)の規定により解約したときは、本件更生会社は買主に対し、売買代金全額を返還するほか、売買代金完済の日から解約のときまで年三〇パーセントの割合による金員を付加金として支払う(同4)。

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